平成30年12月14日に与党より、「平成31年度税制改正大綱」が公表されました。本コラムでは、「平成31年度税制改正大綱」のうち移転価格税制について新たに導入された無形資産の所得相応性基準について解説致します。
なお、無形資産については以下のコラムもあわせてご覧ください。
平成31年度税制改正では、無形資産の評価方法として独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法、取引単位営業利益法といった従来からの移転価格算定方法に加えて、ディスカウンティド・キャッシュ・フロー法(DCF法)を新たに評価方法に加えております。
このDCF法とは国外関連者間取引において譲渡対象となる無形資産から将来得られるであろうキャッシュ・フローを事業計画等を基に現在価値に割引、無形資産の独立企業間価格を算定するアプローチであり、算定結果は譲渡価値算定時点における事業計画上の将来予測の信頼性に大きく依存することとなるアプローチであり、従前の課税実務においては移転価格税制に限らず通常採用されてはこなかったアプローチになります。
無形資産の価値は無形資産から生じる超過収益力に基づき算定すべきとする考え方からすると無形資産を使用した結果、使用した会社から生じる収益により無形資産の価値を測定すべきこととなります。
但し、無形資産の譲渡取引では譲渡後に生じる収益は譲渡時点では当然のことながら判明しないため当該無形資産を譲渡した後に無形資産から生じる将来収益を事業計画を基に予測し、DCF法により現在価値に割引くことにより無形資産の譲渡価値を算定することが考えられますが、ここで無形資産の譲渡価値を算定する上での前提となる事業計画上の数値はあくまで予測に過ぎないことから、当然のことながら予測と実際の結果に大きな乖離が生じることが起こり得ます。
今回新たに導入された無形資産についての所得相応性基準とは、この無形資産の譲渡価値の前提となった将来収益の予測と実際の結果の乖離が20%を超える場合に、税務当局に予測と実際の結果が乖離した事情を勘案して、事後的に最適な算定方法により独立企業間価格を再度算定し、その価格に基づいた課税を行う価格調整措置を認めるものになります。
所得相応性基準が導入されることによる実務への具体的な影響については、今後税制改正が行われた後に次第に明らかになるものと考えられますが、少なくとも無形資産の譲渡取引については当該無形資産について第三者間取引事例があるような特殊な状況を除き、基本的には事業計画のような予測数値に基づいて譲渡価値を算定せざる得ないケースが多々あることから、将来収益について予測と実際の結果の間に大きな乖離が生じることにより、税務当局により事後的に課税されるリスクが今後生じることが考えられます。
元来将来収益の予測には不確実性を伴うものであり、仮に最善の見積もりを行ったとしても予測と実際の結果に大幅な乖離が生じる事態が生じる可能性を完全に排除することはできないため、所得相応性基準の導入は納税者に著しく不公平な結果をもたらしかねないため、導入の是非の検討の際には様々な議論が行われたこととなりますが、今回の平成31年度税制改正大綱においてはOECDによるBEPSプロジェクトによる国際的な動向を踏まえ導入が行われたものと考えられます。
OECDによるBEPSプロジェクトについてはこちらもあわせてご覧ください。
いずれにせよ今後国外関連者との間に無形資産の譲渡等の取引を行う企業は、譲渡対価の算定にあたり将来予測を用いる場合、当該将来予測について譲渡時点での最善の見積もりに基づき行うことは当然でありますが、それに加えて予測と実際の結果との間に乖離が生じてしまった場合の対応を検討することが必要になるものと考えられます。
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