取引単位営業利益法(TNMM)は、日々行われる個別の取引ごとに移転価格の検証を行うのではなく、一つの取引形態として独立企業間価格を算定することができると判断される取引単位ごとに検証対象会社の利益水準と比較対象会社の利益水準を比較することにより、国外関連者間取引の移転価格の検証を行う方法になりますが、ここで用いられる利益水準指標については検証対象会社の機能・リスクの影響が最も強く反映される利益水準指標を用いることが必要になります。このコラムでは、この取引単位営業利益法で用いられる利益水準指標について解説致します。
取引単位営業利益法(TNMM)で用いられる利益水準指標には、主として以下の4種類の利益水準指標があります。
まず1の対売上高営業利益率について、OECD多国籍企業及び税務当局のための移転価格ガイドライン2017年版(以下、「OECD移転価格ガイドライン2017年版」)では、「営業利益を売上高で除した営業利益指標、すなわち売上高営業利益率は、独立顧客への再販売のための関連者からの仕入れに係る独立企業間価格を算定するために使用されることがある。この場合、分母となる売上高の数値は、調査対象の関連者から仕入れた商品の再販売高とすべきである。」と記載されております。
従って、売上高営業利益率が取引単位営業利益法(TNMM)における利益水準指標として用いられる状況は、日本法人から独自の営業網等を持たず現地で比較的単純なセールス活動に従事する国外関連者(国外関連者が独自の営業網や高度な機能を持つ場合には、そもそもTNMMが適用できないため)に対し製品を販売し、当該国外関連者から外部の第三者に対して当該製品を販売するような取引において、日本法人から当該国外関連者に対する販売価格を決定する際に用いられる状況が主として想定されます。
次に2の対総費用営業利益率について、OECD移転価格ガイドライン2017年版では、「原価ベースの指標を使用するのは、原価が、検証対象者が果たす機能、使用した資産及び引き受けたリスクの価値についての適切な指標である場合に限るべきである。」と記載されております。従って、原価ベースの指標の使用が適当であるケースは主として、営業利益が資産に対してウェート付けされる多額の設備投資を必要とする資本集約型の製造会社ではなく、多額の設備投資を必要とせず営業利益が主に労働要素に集約される労働集約型の製造会社やあるいは役務提供会社に対するものになります。
次に3の対営業資産営業利益率について、OECD移転価格ガイドライン2017年版では、「製造など資産集約的な活動、金融など資本集約的な活動など、(原価や売上高よりも)資産が検証対象者の価値の付加を示すよりよい指標となる場合、対資産(又は資本)利益が、適切な指標となることがある。資産を分母とする営業利益指標を用いる場合、営業用資産のみが用いられるべきである。」と記載されております。従って、この利益水準指標は多額の設備投資を必要とする製造会社等での使用が主として想定されるものと考えられます。
最後に4.対営業費用売上総利益率(ベリー比)について、「ベリー比」とは営業費用に対する粗利益の比率として定義されますが、OECD移転価格ガイドライン2017年版では、以下の通りに記載されております。
「べりー比が有用となりうる状況としては、納税者が関連者から仕入れ、他の関連者に販売する仲介活動がある。このような場合、再販売価格基準法は、非関連者の売上が存在しないため適用できないであろうし、また、売上原価に対するマークアップを与える原価基準法も、売上原価が関連者間仕入である場合には、適用できないであろう。逆に、仲介業者の営業費用は、関連者に支払われる本社費、賃貸料、使用料等の関連者間原価から重要な影響を受ける場合を除き、取引価格設定と関連性を有しないため、事案の事実と状況に応じて、上述の内容に従い、ベリー比が適切な指標となるかもしれない。」
上記のOECD移転価格ガイドライン2017年版の記述を考慮するとベリー比の主として想定される場面としては、予め販売先が決まっており在庫リスクを保有しない状況で単純な仲介活動に従事する事業者になりますが、実際にベリー比が適用されるケースは限定的であるものと考えられます。
以上のように取引単位営業利益法を適用する際には、各利益水準指標の有する特性を理解したうえで、検証対象会社の機能・リスクの影響が最も強く反映される利益水準指標を用いることに留意が必要になります。
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