OECDによるBEPS行動計画を受け日本においても平成28年度の税制改正により2016年4月1日以降開始事業年度より「マスターファイル」、「国別報告書」及び「ローカルファイル」について多国籍企業についての作成義務が法制化されることとなりました。このコラムではこの移転価格文書化制度の概要及びOECDによるBEPS行動計画により移転価格新文書化制度が提言されることとなった背景について解説致します。
6.ローカルファイル(移転価格文書)の
なお、移転価格文書化制度については以下のコラムもあわせて御覧ください。
BEPSとは、BaSE Erosion & Profit Shiftingの略称であり、日本語にすると「税源浸食と利益移転」になりますが、内容としては欧米を中心とする多国籍企業グループが国際的な税制の隙間や抜け穴を利用することにより、軽税率国に利益が移転され本来であれば課税権があるはずの国の税源が浸食されている状態であり、近年税の世界において特に問題視されている事項になります。
このような状況に対する対抗措置として、2013年7月にOECDにより15にわたる行動計画が公表されました。
OECDによるBEPS行動計画についてはこちらも御覧ください。
このOECDによる15にわたる行動計画のうち。移転価格税制に直接関連する項目が「行動計画13:移転価格文書の再検討」になります。
OECD行動計画では、多国籍企業グループに対して、以下の3種類の資料整備を要請しております。
このうち、「マスターファイル」はグループ事業の全体像についての記述を求める書類、「国別報告書」は国別の損益情報や事業上の役割分担を求める書類であり、「ローカルファイル」は各国の納税主体たる法人別にそれぞれが関わる関連者間取引についての詳細な記述を求める書類になります。
なお、3種類の資料のうち「ローカルファイル」」は従前から存在していた移転価格文書に相当する書類であり、「マスターファイル」及び「国別報告書」については新たに導入された書類になります。
BEPS行動計画13を受け日本においても平成28年度税制改正により、移転価格の新文書化制度が導入され、平成28年4月1日以降開始事業年度より当該移転価格新文書化制度に対する対応が法制化されております。
OECD多国籍企業及び税務当局のための移転価格ガイドライン2017年度版「以下、「OECD移転価格ガイドライン2017年版」)によると移転価格文書化の3つの目的は以下の通りとされております。
1.独立企業原則についての納税者による評価
OECD移転価格ガイドライン2017年版では、移転価格文書の作成が求められる第1の目的として「納税者に対して、関連者間の取引価格及びその他条件の設定及びその取引から生じる所得の申告に当たり、移転価格を適切に検討する機会を確保」することとしております。すなわち、移転価格文書化を行うことにより、まず納税者自身がコンプライアンス上の要請としてグループ内の国外関連取引について移転価格税制の観点からの分析を行い、分析した結果について適切に文書化を行うことが必要であるものといえます。
2.移転価格のリスク評価
移転価格文書の作成が求められる第2の目的は、「税務当局に対して、移転価格リスク評価の実施に必要な情報を提供」することとされております。すなわち、税務当局は調査の初期段階において、移転価格調査にふさわしい事案の選定や、重要な論点の絞り込みにあたって納税者の移転価格上の取り決めが、より詳細な検討や税務調査リソースの投入に値するのか否かを評価するために、納税者により作成された移転価格文書をリソースとして用いることになります。
このことは納税者の立場からすると、納税者が、明確で説得力があり、一貫かつ的確な移転価格上の分析を移転価格文書で行っていれば、税務当局が調査の初期段階で移転価格リスクが低いものと判断し、本格的な調査に移行しない可能性が高くなることを意味します。
3.移転価格調査
移転価格文書の作成が求められる第3の目的は、「税務当局に対して、自国納税者への徹底した移転価格調査を適切に実施するために有益な情報を提供」することとされております。すなわち、税務当局は移転価格リスク評価の結果、移転価格リスクが高いと判断した取引について詳細な移転価格調査を行うこととなりますが、移転価格調査では納税者の事業や機能の情報、関連者間取引を行う各関連者の事業、機能及び業績に関する情報、内部比較対象取引を含む比較対象取引候補の情報、比較対象候補となる非関連者間取引及び非関連者に関する事業及び業績に関する文書等が税務当局により提供が求められる情報になります。
このような情報を実際に調査が入ってから準備していたのではタイムリーな資料の提出ができず税務当局との間に不要な軋轢が生じる結果になりかねないことから、詳細な移転価格調査が行われた際にタイムリーに調査官に対し移転価格調査に必要な情報を提供するためにも、移転価格文書を予め入念に作成することが求められることとなります。
多国籍企業グループによる関係会社間取引を通じた所得の海外移転に対して、税務当局が適正な課税を実現するためには、自国企業の国外関連者との取引に関する情報だけでなく、グローバル全体での関係会社間取引の全体像を把握する必要があります。そのために、BEPSプロジェクトの最終報告書(行動13)によって、マスターファイルの導入が提言され、日本においても平成28年度税制により事業概況報告書(マスターファイル)の作成および提出が義務づけられることとなりました。
事業概況報告事項(マスターファイル)は、多国籍企業グループの組織・財務・事業の概要等、多国籍企業グループの活動の全体像に関する情報を記載した文書で、その概要は次のとおりとなります。
特定多国籍企業グループの構成会社等である内国法人またはPEを有する外国法人。
ただし、提供義務者が複数ある場合に、事業概況報告事項を代表して提供する特例に係る事項を事業概況報告事項の提供期限までにe-Taxにより所轄税務署長に提供した場合には、代表提供者となる法人のみが提供義務者となります。
ここで事業概況報告事項(マスターファイル)の提供義務が生じる特定多国籍企業グループとは、多国籍企業グループのうち、直前の最終親会計年度における多国籍企業グループの総収入金額が1,000億円以上のものが該当します。
なお、総収入金額は、多国籍企業グループの連結財務諸表における売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額(連結財務諸表がない場合には、多国籍企業グループの財産および損益の状況を明らかにした書類に基づいて計算した当該合計額に相当する金額)とされております。
特定多国籍企業グループの組織構造、事業の概要、財務状況等に関する事項
最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内にe-Taxにより所轄税務署長に提供
日本語または英語
正当な理由なく事業概況報告事項を期限内に提供しなかった場合には30万円以下の罰金
国別報告事項(CbCR)は、多国籍企業グループの各国・地域別の収入金額、税引前当期利益の額、納付税額、その他の事項に関する情報を記載した文書で、その概要は次のとおりとなります。
①多国籍企業グループの最終親会社等が日本に所在する場合
多国籍企業グループの最終親会社等が日本に所在する内国法人である場合、当該内国法人は報告対象となる会計年度の終了の日の翌日から1年以内にe-Taxにより国別報告事項を所轄税務署長に提供する必要があります。
なお、この場合、海外子会社所在地国において当該国別報告事項は、日本との間に租税条約による情報交換規定等による適格当局間合意が行われていない国を除き、原則として当該海外子会社所在地国の税務当局へ自動的に提供されます(条約方式)。
②多国籍企業グループの最終親会社等が外国に所在する場合
【原則】条約方式
最終親会社等が外国に所在する場合には、当該最終親会社等の居住地国の税務当局に提出した国別報告事項に相当する情報が当該外国の税務当局から日本の税務当局に提供されるため、原則として特定多国籍企業グループの構成会社等である内国法人には、日本における国別報告事項の提供義務は生じないこととなります。
【例外】子会社方式
例外として、最終親会社等の居住地国と日本との間に適格当局間合意が行われていない等の事由により、最終親会社の居住地国の税務当局が日本の税務当局に対して国別報告事項に相当する情報を提供することができないと認められるときは、特定多国籍企業グループの構成会社である内国法人は、国別報告事項を報告対象となる会計年度の終了の日から1年以内にe-Taxにより、所轄税務署長に提供する必要があります。
特定多国籍企業グループの構成会社等の事業が行われる国または地域ごとの以下に掲げる事項
英語
正当な理由なく国別報告事項を期限内に提供しなかった場合には30万円以下の罰金
国外関連取引を行った法人は、当該国外関連取引に係る独立企業間価格算定に必要な書類として法令上定められている書類であるローカルファイルを作成し、保存する必要があります。なお、ローカルファイルは、従前より制度上存在していた所謂移転価格文書と実質的には同じものになります。また、マスターファイル及びCbCRと異なり作成し保存することのみが求められており、税務当局に提出するのは基本的には税務調査において調査官より求められた場合のみになります。ローカルファイルの概要は次のとおりとなります。
国外関連取引を行った法人
確定申告書の提出期限
当該一の国外関連者との間の前事業年度(前事業年度がない場合には当該事業年度)の取引金額(受払合計)が50億円未満かつ当該一の国外関連者との間の前事業年度(前事業年度がない場合には当該事業年度)の無形資産取引金額(受払合計)が3億円未満である場合
調査において提示または提出を求められた日から45日以内(上記免除要件に該当する場合は60日以内)の一定の期日
指定なし
ローカルファイル(移転価格文書)は、①国外関連取引の内容を記載した書類と、②国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するための書類の2種類に大別されます。①国外関連取引の内容を記載した書類の記載事項は以下になります。
以上が①国外関連取引の内容を記載した書類になりますが、次に②国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するための書類は以下のものになります。
ローカルファイル(移転価格文書)については、上記のような事項を必要に応じ移転価格税制の専門家と協同し記載することとなります。なお、ローカルファイル(移転価格文書)については以下のコラムもあわせて御覧ください。
【当事務所サービス】 当事務所では、移転価格税制に関する以下のようなサービスを提供しておりますので、お困りの際は随時以下のお問合せフォームよりご連絡ください(ご相談については、本契約締結までは無料になります)。
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