このコラムでは日本の重要な取引相手国であるアメリカとの間で締結されている日米租税条約の概要について解説致します。なお、日米租税条約については、日米租税条約を改正する議定書(改正議定書)に係る批准書が、2019年8月30日、日米政府間で交換され、改正議定書が同日付で発効しており、以下のスケジュールで適用されるものとされております。
源泉徴収される租税 | 2019年11月1日以降に支払われ、又は貸記される額 |
その他の租税 | 2020年1月1日以後に開始する各課税年度 |
日米租税条約における居住者とは、当該一方の締約国の法令の下において、住所、居所、市民権、本店、又は主たる事務所の所在地、法人の設立場所その他これらに類する基準により当該一方の締約国において課税を受けるべきものとされる者とされております(但し、当該一方の締約国における国内源泉所得のみに課税される者等を除く)。
また、上記に加えて米国市民又は米国における永住権を適法に認められた個人は、米国内に恒久的住居若しくは常用の住居を有する等の条件を満たす場合、米国の居住者に該当するものとされます。
日米租税条約において、恒久的施設とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいうものとされ、特に次の場所を含むものとされております。
A)事業の管理の場所
B)支店
C)事務所
D)向上
E)作業場
F)鉱山、石油又は天然ガスの抗井、採石場その他天然資源を採取する場所
また、建築工事現場、建設若しくは据付けの工事又は天然資源の探査のために使用される設備、堀削機器若しくは堀削船については、これらの工事現場、工事又は探査が12ヶ月を超える期間存続する場合には、恒久的施設を構成するものとされております。
また、上記に該当する場合であっても、以下に該当する場合については、「恒久的施設」に該当しないものとされております。
A)企業に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ施設を有すること。
B)企業に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのためにのみ保有すること。
C)企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。
D)企業のために物品若しくは商品を購入し又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
E)企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
F)(A)から(E)までに掲げる活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、当該一定の場所におけるこのような組み合わせによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
なお、企業の利得である事業所得については、原則的には当該企業の居住地国でのみ課税を行うことが認められており、例外として他方の締約国内における恒久的施設を通じて事業を行う場合に、事業所得のうち当該恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、当該他方の締約国である所得の源泉遅刻において課税することができるものとされております。
日米租税条約において、一方の締約国の居住者が他方の締約国に所在する不動産を保有することから生じる不動産所得については、所得の源泉地国である不動産の所在国において課税を行うことができるものとされております。
一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当については、所得の源泉地国である配当を支払う法人の所在地国において配当支払時に課される源泉税について以下の軽減が行われております。
軽減税率 | 受益者 |
免税 | 配当支払法人の議決権のある株式の50%超(改正議定書で「50%以上」に変更)を 直接又は間接に12ヶ月以上(改正議定書で「6ヶ月以上」に変更)所有する法人 (一定の特典制限条項の要件を満たすものに限る。) |
5% | 配当支払法人の議決権のある株式の10%以上を直接又は間接に所有する法人 |
10% | 上記以外 |
一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う利子については、所得の源泉地国である配当を支払う法人の所在地国において利子支払時に課される源泉税については以下の軽減が行われております。また、改正議定書では全ての者による利子の支払につき免税とされております。
軽減税率 | 現行の受益者 | 改正議定書発効後の受益者 |
免税 |
| 全て |
10% | 上記以外 | なし |
上記のとおり改正議定書発効後においては、原則としてすべての者による利子について所得の源泉地国における源泉税が免除とされる一方で、以下のいずれかに該当する「利益連動型の利子」については、改正議定書も引き続き、10%を限度として、源泉地国において課税できることとされております。
A)次のものを基礎として算定される利子
B)Aの利子に類する利子
なお、不動産により担保された債権又はその資産の流動化を行うための団体の持分に関して支払われる利子の額のうち一定のもの(米国における不動産担保共同出資(REMIC)の残余証券に関して生じる超過利子相当額)については、従前より国内法に従って課税されることとされており、この取り扱いに改正は行われておりません。
日米租税条約において、「使用料」とは、文学上、学術上若しくは学術上の著作物(映画フィルム及びラジオ放送用又はテレビジョン放送用のフィルム又はテープを含む。)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として、又は産業上、商業上若しくは学術上の秘密に関する情報の対価として受領されるすべての種類の支払金等をいうものとされております。
「使用料」について、日米租税条約では居住者の居住地国においてのみ課税権を認めております。
日米租税条約では、原則として一方の締約国の居住者が他方の締約国に所在する資産の譲渡により取得する収益については、譲渡を行った者の居住地国におて課税を行うことができるものとしており、例外的に以下の資産については資産が所在する他方の締約国において課税を行うことができるものとしております。
これらのうち、改正議定書では不動産化体株式の内容が以下のように改正されております。
現行 | 改正議定書発効後 |
他方の締約国の居住者である法人のうち、その資産の価値の50%以上がその他方の締約国内にある不動産により直接又は間接に構成される法人の株式 | A)他方の締約国(法人の所在地国)が日本である場合 資産の価値が主として日本国内にある不動産により直接又は間接に構成される法人の株式 B)他方の締約国が米国である場合 合衆国不動産持分(米国内に所在する不動産の持分及び合衆国不動産持分会社(米国法人で、その資産価値に占める合衆国不動産持分の割合が50%以上であるもの)にその持分の譲渡前5年間のいずれかの時点で該当するものの持分 |
役員報酬については改正議定書で日本語のみ改正が行われており、日米租税条約における役員報酬についての現行及び改正議定書発効後の取り扱いはそれぞれ以下の通りになります。
現行 | 改正議定書発効後 |
一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては、その他方の締約国において租税を課することができる。 | 一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の取締役会の構成員の資格で取得する報酬その他これに類する支払金に対しては、その他方の締約国において租税を課することができる。 |
日本の財務省の解説では、日米の税法や会社法制を比較すると、それぞれの国において「役員」とされる者の範囲に相違があることから、対象となる者の範囲を両締約国においてできる限り整合的なものとするため、「役員」を「取締役会の構成員」に変更したと説明されております。
役員の定義は日米租税条約に定めがないため、日本においては国内法に従い、取締役、執行役、監査役等が含まれることとされておりましたが、改正後の条約のもとでは、この条項の適用は「取締役会の構成員」に限定されることとなります。
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