移転価格税制において国外関連者の所得配分を検討する際に必ず考慮しなければならない事項の一つとして無形資産があります。無形資産の定義については、移転価格税制についての国際的な指針であるOECD移転価格ガイドラインによると、「有形資産や金融資産ではなく、商業活動に使用するに際し所有又は支配することができ、比較可能な状況で非関連者間による取引において、その使用又は移転の対価が支払われるものを指す。」と記載されており、必ずしも特許や商標に限定されない幅広い概念としております。
上記のように無形資産についてはOECD移転価格ガイドラインでは幅広い概念にしておりますが、この理由についてOECD移転価格ガイドラインでは「無形資産という用語に狭すぎる定義が適用される場合、ある事物について、非関連者間においては対価が発生する使用又は移転であっても、納税者又は税務当局は、無形資産の定義から外れるとして個別の対価なしに移転又は使用し得ると主張するかもしれない。」と記載しております。
以上のように無形資産については、そもそもどのようなものまで対象に含まれるかの線引きも必ずしも明確でなく、また使用や譲渡が行われる場合の移転価格税制における独立企業間価格の算定方法についても必ずしも確立されているものではないため、移転価格税制の実務においては非常に議論を伴う事項になります。
本コラムではOECD移転価格ガイドラインをもとに無形資産について今後の実務を検討する上での参考となる事項を記載致します。
無形資産の定義について、OECD移転価格ガイドラインでは上記のようにわかりにくい記載をしておりますが、一方で同ガイドラインでは無形資産に該当するものと該当しないものを明確に例示しており、無形資産への該当性を判断する上では一定の参考になるものと考えられます。
無形資産に該当するもの
無形資産に該当しないもの
OECDでは、無形資産の譲渡・使用許諾等の取引についての移転価格算定手法の選定について、「5つのOECD移転価格算定手法(独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)、取引単位営業利益法(TNMM)、取引単位利益分割法のいずれもが、最適な移転価格算定手法となり得る。他の代替的な方法の使用も適切となり得る。」としている一方で、「最も有益と考えられる移転価格算定手法は、CUP法及び取引単位利益分割法である。」としております。
上記で有益と考えられる手法として挙げられた二手法のうちCUP法については、現実のところ個別性の高い無形資産について比較対象取引が特定可能なケースは多くなく、OECD移転価格ガイドラインにおいても「信頼し得る比較対象取引の特定は、無形資産が関わる多くの事例において、困難であるか不可能であることを認識するべき」としており、理論的には優れた移転価格算定手法である一方、現実の適用が困難であることを認める記述をしております。
もう一つの有益と考えられる手法として挙げられた取引単位利益分割法については、利益分割を行うためのファクター等の選定で実際の実務の現場で税務当局との間での見解の相違が生じやすい移転価格算定手法であり、実際に適用を行う上では慎重に検討をする必要があります。
いずれにしても上記のように、無形資産の譲渡・使用許諾等の取引についての最適な移転価格算定手法の選定は個々の事案により異なり、納税者はそれぞれの事案においておかれた状況を考慮し最適な移転価格算定手法を選定することが必要となります。
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