各種優遇税制には税務上の恩典を与えることで企業の投資活動を促進するあるいは研究開発活動を後押しするといった政策上の目的が通常ありますが、所得拡大促進税制については給与等を増額させた場合に増加額のうち一定額については税額控除を認めることにより、企業の賃上げを支援することが所得拡大促進税制の目的になります。
資本金が1億円超等の税務上の大企業については、中小企業と比較し税務上の恩典措置である税額控除について利用可能なものが大幅に制限されておりますが、所得拡大促進税制は大法人でも利用可能な優遇税制の中でも比較的適用がしやすい部類に入る税制になります。
本コラムでは、そのような大企業向け措置としての所得拡大促進税制の概要及び適用上の留意点を解説致します。
所得拡大促進税制の大企業とは、以下のいずれにも該当しない法人になります。
なお、2019年4月1日以降に開始する事業年度では、その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得の金額の年平均が15億円を超える法人は、この中小企業者の定義から外れるため、仮に上記のいずれかに該当したとしても適用条件が大企業と同じになります。
また、この中小企業者に該当するかについては、適用を受ける事業年度終了の時の現況によって判定することとされております。
所得拡大促進税制は通常の措置と通常の措置に加え一定の要件を充足した場合に適用が可能となる上乗せ措置がありますが、まず通常の措置については以下の要件をいずれも充足した場合に国内雇用者に支払った給与総額についての前年度からの増加額の15%を法人税額の20%を上限として税額控除できる制度になります。
要件1:継続雇用者給与等支給額が前事業年度比で3%以上増加
要件2:国内設備投資額が減価償却費総額の9割以上
なお、ここで国内雇用者及び継続雇用者の定義は以下になります。
所得拡大促進税制については、平成30年度税制改正により見直しが行われており、改正前は、平均給与等支給額が前期よりも増加していることが要件でしたが、平成30年度改正により、「継続雇用者給与等支給額が前期より増加している」との要件に変更になりました。
これに伴い、期中での採用者・退職者の給与水準の影響を受けにくくなるとともに、計算が大幅に簡素化されております。
具体的には、以下の見直しが行われております。
【改正前】
①算定対象者
➡中途採用者や中途退職者においても、両期をまたがる場合は、在籍していた月数に応じて算定対象となる
②算定対象者における算定対象月
【改正後】
以下全てを満たす者に係る給与等の支給額(継続雇用者給与等支給額)について、前期と当期において比較
上記の見直しの結果、両期全ての期間において一般被保険者として給与の支払を受けた従業員のみが対象となるため、対象者であるかどうかの判断が容易になるものとされております。
所得拡大促進税制には通常の措置にくわえて、一定の要件を充足した場合の上乗せ措置があり、適用要件を充足した場合、国内雇用者に対する雇用者給与等支給額の前事業年度からの増加額の20%を税額控除します。ただし、通常の措置と同様に調整前法人税額の20%が上限となります。
上乗せ措置の適用要件は、以下の要件を充足することとなります。
上乗せ措置の適用要件の一つである教育訓練費が前事業年度の教育訓練費の額と比較して10%以上増加していることについて、対象となる教育訓練費の内容は以下になります。
法人又は個人のその事業に係る国内雇用者。ただし、以下の者は対象外となります。
Ⅰ教育訓練費の対象となる費用
対象となる教育訓練費の範囲は以下になります。
(1)法人等が教育訓練等を自ら行う場合の費用(外部講師謝金等、外部施設使用料等)
①法人等がその国内雇用者に対して、外部から講師又は指導員を招聘し、講義・指導等の教育訓練等を自ら行う費用。
➡講義・指導等の内容は、大学等の教授等による座学研修や専門知識の伝授のほか、技術指導員等による技術・技能の現場指導などを行う場合も対象となります。
➡招聘①する外部講師等は、当該法人の役員又は使用人以外の者であること(当該法人の子会社、関連会社等のグループ企業の役員又は使用人でも可
➡外部の専門家・技術者に対し、契約により、継続的に講義・指導等の実施を依頼する場合の費用も対象となります。
②外部講師等に対して支払う報酬、料金、謝金その他これらに類する費用。
③法人等がその国内雇用者に対して、施設、設備その他資産を賃借又は使用して、教育訓練等を自ら行う費用
➡当該法人の子会社、関連会社等のグループ企業の所有する施設等を賃借する場合も対象となります。
④施設・備品・コンテンツ等の賃借又は使用に関する費用
⑤教育訓練等に関する計画又は内容の作成について、外部の専門知識を有する者に委託する費用。
(2)他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合の費用
①法人等がその国内雇用者の職務に必要な技術・知識の習得又は向上のため、他の者に委託して教育訓練等を行わせる費用であること。
➡他の者には、外部者だけでなく当該法人の子会社、関連会社等グループ内の教育機関等を含みます。
②教育訓練等のために他の者に対して支払う費用(講師の人件費、施設使用料等の委託費用)であること。
(3)他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用(外部研修参加費)
①法人等がその国内雇用者の職務に必要な技術・知識の取得又は向上のため、他の者が行う教育訓練等(研修講座、講習会、研修セミナー、技術指導等)に当該国内雇用者を参加させる費用であること。
②他の者が行う教育訓練等に対する対価として当該他の者に支払う授業料、受講料、受験手数料その他の費用であること。
Ⅱ教育訓練費の対象とならない費用
以下の費用については教育訓練費の対象とはならないこととされております。
所得拡大促進税制等の優遇税制の大半のものは、毎期の申告時に適用要件を充足しているか確認し充足している場合には、決算申告時に適用を受けるための別表を提出する必要があり、申告期限到来後に過年度の申告分に遡る形で適用申請を行うことはできません。従って、給与の総額が増加している企業については、必ず毎期に適用要件を充足しているかを給与データをもとに確認する必要があります。
当事務所では、所得拡大促進税制のような優遇税制の適用に関する支援も行っておりますことから、興味をお持ちの企業様については是非お声がけ頂ければと存じます。
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